泣き声が聞こえる。
は瞼を擦り、起き上がった。枕元に置いていたスマホを手に取って見れば、その眩しさに思わず眉間へ皺が寄った。時刻は午前三時。静まり返った部屋に泣き声だけが木霊している。はベッドを降りて、ラグの敷かれた床へと足の裏をつけた。眠たい上に真っ暗で、家具の輪郭すら闇に溶けて見えない。それでも記憶を頼りに、うっかり躓いて転ばないよう恐る恐る歩く。その間にも泣き声が収まることはなく、むしろ激しさを増しているようにすら思えた。耳の奥がキンと痛む。窓際に置いてあるクッション、しゃくり上げるたびに揺れるシルエット。はそばまで寄ると床に膝をつき、そっと手を伸ばした。
「カラカラ、泣いてるの?」
は親が赤ん坊にするようにカラカラを抱き上げ、優しく揺すりながら小声で話しかける。ようやく目が慣れてきたのと窓際に居ることもあり、カーテンから僅かに滲む月明かりで少し見えるようになった。の腕の中にいるカラカラは、頭に被った骨の眼窩より覗く瞳から大粒の涙をこぼし、泣いている。
「悲しい夢を見たの? それとも、寂しくなっちゃった?」
は左腕でカラカラの身体を抱き、空いた右手でその頬を撫でてやる。泣き声が骨に反響し、振動となって手のひらから伝わった。カラカラが被っているのは亡き母親の頭蓋骨。幼くして死別してしまった母親を思ってカラカラは泣くのだ。それは昼夜を問わないけれど、恋しさのあまり夢に見るのか夜中に泣く頻度が最も高い。そのたびには眠たい目を擦りながらカラカラをあやすのだ。
苦痛に思ったことはない。鬱陶しいと思ったこともない。日中は元気いっぱいに外で遊んだり、バトルに勝利してはしゃぐカラカラが火がついたように泣いている姿を見ると、はどうしようもなく胸が痛むのだ。大切な存在が悲しんでいるのをどうにかしてやれないかと思うのは、にとって当たり前のことだった。
そうしているうちに慟哭の声は次第に小さくなっていき、やがて鼻をすするだけになって、カラカラは泣き疲れて眠ってしまった。小さな手がしっかりとのパジャマを掴んでいる。はカラカラの目尻に滲んでいる涙を拭ってあげると、自分のベッドに戻った。カラカラを起こしてしまわないよう、慎重にタオルケットを被る。
あれだけ泣いていたのが嘘みたいに穏やかな寝顔だ。はほっと息をつく。カラカラが抱えている親との愛別離苦の悲しみを、第三者であるが癒すことは難しいだろう。気を紛らわせてあげるくらいしかできない。カラカラを泣き止ませようとあれこれ手を尽くすのだってそのうちのひとつだ。
あどけない寝姿にもつられて眠くなる。カラカラの背中をぽんぽんと叩きながら、はゆっくりと目を閉じた。
——そうやって甘やかすから、いつまで経っても進化できないんじゃないかな。
うとうと、夢と現実の狭間を揺蕩っていたの脳裏にその言葉が蘇った。
カラカラは母親の死の悲しみを乗り越えるとガラガラへ進化すると言われている。もちろん他のポケモンと同じく、バトルで経験を積むのが前提条件ではあるが。しかしのカラカラは何度バトルに勝っても、どれだけ経験を積んでも、一向に進化の兆しが見えないのだ。カラカラはバトルが好きな方だから進化させてあげたいと思っているのだが。
あの言葉は以前にがバトルした相手から言われたものだ。カラカラが勝利し、お互いの健闘を讃えていた時のこと。「君のカラカラ、相当強いけど進化させないのかい?」打ち負かされてひんしになってしまったカジリガメをモンスターボールへと戻しながら、対戦相手の男の子が尋ねてきた。はかぶりを振って答える。あえて進化させていないのではなく、進化しないのだと。
男の子が言う通り、強さは十分にあるのだ。その証拠が先ほどの戦いだ。カラカラはじめんタイプで、カジリガメはみずタイプ。だというのに相性の不利をものともせず、シェルブレードをくらっても怖気づくことはなかった。それは無理矢理に力で押し切ったのではなく、カラカラの身体が強いため、防御しなくてもあしらえたのだ。
それでも進化ができないとなると。
「……経験は十分に積んでいるから、あとはきっと……」
あとはきっと、カラカラ自身の心の問題かもしれない。そう続けようとしたの言葉を遮って、耳をつんざく泣き声が聞こえてきた。驚いて声のする方を見れば、カラカラが地面に伏して泣いていた。どうやら、近くを飛んでいた野生のバタフリーを追いかけていたら、石に躓いて転んでしまったらしい。バタフリーは困ったようにカラカラの周りを飛んでいる。
は迷うことなくカラカラのもとへと駆け寄った。転んだはずみで手からすっぽ抜けてしまったふといホネを握らせ、カラカラを優しく抱き上げる。
「痛かったね、よしよし。大丈夫だから泣かないで……」
傷の手当てをする前にカラカラを落ち着かせる必要がある。は腕に抱いた小さな身体を揺すったり、頭を撫でたりしてあやす。
しばらくしてようやく泣き止むと、カラカラは涙を拭いて笑顔を見せてくれた。ほっと胸を撫で下ろしたは、カラカラの好物であるフィラのみをひとつ与える。キズぐすりを膝小僧に吹きかける頃には、カラカラはすっかり元気を取り戻していた。
「今度は転ばないようにね」
がそう念を押すと、カラカラは頷いて再びバタフリーのところへ走って行った。また追いかけっこをして遊ぶ二匹を見守っていたところで、あの言葉を男の子に言われたのだ。
「そうやって甘やかすから、いつまで経っても進化できないんじゃないかな」
失礼だと怒りを憶えるのではなく、はぎくりとした。それは自分でも同じようなことを思っている節があるからだ。
はどうしてもカラカラに泣かれると弱くて、涙を止めようとしてあれやこれやと尽くしてしまう。けれど時折、これは本当にカラカラのためになっているのかと自問自答することがある。近頃、その頻度が高くなってきているのだ。
カラカラが怪我をした時も、迷子になった時も、母親を思い出して泣く時も、が甘やかしてしまうから。母親の代わりになってしまうためにカラカラは強くなれない。身体は成長しても心が未熟なまま故に進化できないのではないか。
——のせいで。
黙り込んでしまったに、気を悪くしてしまったかと思った男の子が慌てて謝る。「ごめん、責めてるわけじゃないんだ。少し気になっただけで……」は憤りを感じてはいなかった。たぶん、が男の子の立場だったら同じことを考えていただろうから。気にしていないと伝え、少し談笑したあとにふたりは別れた。
その日から、はどうにかカラカラが自立できるようにと、泣いてもすぐに手を貸さないことを心がけていたのだが——てんで駄目だった。カラカラではなくが。泣き声に聞こえないふりをしていても、その悲痛さに耐えかねて抱きしめてしまう。
どうしていいか分からなくなったは、ポケモンセンターのジョーイさんに相談を持ちかけた。念のためにと検査を受け、身体に異常がないことを確認した上でジョーイさんは優しく微笑み、に助言をしてくれた。
「ポケモン自身のペースもありますから、一概に進化が早いほど良いとは言えません。甘えるのだって悪いことではありませんし、きっとまだ時期が来ていないだけです。いずれカラカラはさんの気持ちに応えてくれますよ」
本当に?
は膝の上に座るカラカラを見遣る。カラカラはふたりが何の話をしているのかいまいち理解できていないようで、と目が合うと屈託なく笑った。それからお腹のあたりに抱きついて、頭を擦り寄せる。これは撫でて欲しい時の仕草だ。が頭を撫でてやれば、カラカラは嬉しそうに喉を鳴らした。
焦らなくても、その日はいつかやって来る。カラカラのペースに合わせて前進していけばいい。すっかり胸が軽くなったはジョーイさんに何度も頭を下げ、ポケモンセンターを後にした。
……ほんの数ヶ月前のことなのに、一連の出来事をよく夢に見る。
はまだ重たい頭で瞼を開ける。朝が来たようで、視界の端に見えるカーテンから日の光が漏れていた。夜中に一度目が覚めたからか、昨日は早く寝たはずなのに寝足りない感じもするが、いつものこと。が大きなあくびをすると腕の中にいるカラカラも起きたようだった。
「おはよう、カラカラ」
が挨拶をすると、まだ眠たそうな声でカラカラが鳴く。挨拶を返してくれたのだろう。その可愛らしい仕草にはくすりと笑ってカラカラの頭を撫でた。
「天気、良いみたいだね。予定通りワイルドエリアに行こっか」
週末は予定がなければワイルドエリアでキャンプをするのがふたりの決まりになっている。カラカラはきのみ集めもカレー作りもバトルもできるキャンプが好きみたいだ。
もっと寝ていたいと訴える身体を奮い立たせ、とカラカラはベッドから起き上がった。
◇◇◇
「カラカラ、ホネブーメラン!」
の指示に短く鳴いて返事をしたカラカラは、手にしたふといホネを勢いよく投げた。弧を描いて飛ぶホネはチョロネコの身体に当たると、再びカラカラの元へ戻ってくる。体勢を崩したチョロネコは勝ち目が無いと思ったのか逃げようと踵を返したけれど、すかさずもう一度投げられたホネが後頭部にぶつかり目を回して倒れた。その拍子にチョロネコの手から投げ出されたスマホロトムをキャッチして、は胸を撫で下ろす。スマホロトムも安堵したのか両目をうるうるさせていた。
「もう、油断も隙も無いんだから……」
がキバ湖の湖畔にテントを張ろうかと思って少しカバンを置いた途端、いつから狙っていたのか野生のチョロネコがスマホロトムをかっさらって行ったのだ。チョロネコといえば手癖が悪く、人の大切なものを盗んでは困っている姿を見て喜ぶポケモン。も知ってはいたけれど、可愛らしい見た目に騙されちゃダメだと表情を険しくした。
「カラカラ、ありがとう。おかげで盗まれずに済んだよ」
カバンの中にしっかりとスマホロトムを入れ直したがお礼を言うと、カラカラはホネを振り回して喜んだ。
チョロネコが目を覚ましたらまた襲ってくるかもしれないから、テントを張るのは別のところにしよう。そう言ってふたりはもっと良い場所を探して歩き出した。
「あ、そうだ。きのみもいっぱい採らないとね」
は思い出したように言う。
手持ちのきのみが少ないわけではないが、からいカレーを作るためにはからい味のきのみが足りない。近頃カラカラは食べる量が増えているのもあり、おかわりをするだろうから余分にあったほうがいいだろう。それに別の味のカレーを作ったってカラカラは喜んでくれるだろうけれど、せっかくなら好きなものをお腹いっぱい食べてほしい。そんなの思いもあった。
テントの設営場所ときのみのなる木を探してふらふらと歩きつつ、途中で出会う好戦的なポケモンを倒して進む。タイミング悪くホシガリスをはじめとした野生のポケモンが食べてしまったのか、きのみがなっている木がなかなか見つからず、はうーんと唸った。それから周りを見回し、キバ湖に浮かぶ小島に一本の木が立っているのが目に入った。
「あそこって……キバ湖の瞳? だっけ。行ってみよっか」
ロトムじてんしゃがあるので水上の移動も困難ではない。まだ行ったことのない場所が気になるのか、カラカラは賛成だと言うように頷いた。
がじてんしゃに跨り、カラカラをボールへ戻そうとするといやいやと首を振る。どうしたのと問えばの足をよじ登り、背中にぎゅっとしがみついた。カラカラが何をしたいのか理解したは苦笑いを浮かべる。
「湖をじてんしゃで走るとどんな感じか知りたいの? いいけど、水かかっちゃうかもよ」
が優しく諭したもののカラカラの意思は固いようで、大丈夫! と言うように鳴くと腕の力を少し強めた。はしょうがないなあと笑ってペダルを踏む。地面の上を走るのとは違う、不安定に揺れる感覚が面白いのか、カラカラは笑い声を上げた。水面から顔を出すプルリルや低空飛行するキャモメにぶつからないよう、はハンドルを切って巧みに避ける。そのたびにどうしても水飛沫が跳んでしまうのでは心配したが、カラカラは終始楽しげにしていた。
キバ湖の瞳に到着すると、あたりは霧で白く煙っていた。カラカラはの背中からひょいと降りて、少し濡れてしまった身体を揺すって水気を払う。
「あはは、やっぱり濡れちゃったね」
ポケットから取り出したハンカチで拭いてあげながら、は周囲に目を遣る。近くには草むらがあるし霧で視界も悪い。戦い続きでカラカラも少し疲れているので野生のポケモンが飛び出してきたら厄介だ。用が済んだらさっさと引き返すのが吉かもしれない。
ふたりは先ほど湖畔から見つけた木を探して歩き出す。キバ湖の瞳はそれほど広大ではないためすぐ辿り着くものだろうと思っていたのだが、霧のせいで方向が分からなくなって同じ道をぐるりと回ってしまったりした。どうにもままならない。
後ろからついて来ているカラカラが自分を見失っていないか何度か声がけをしつつ、はようやっときのみの木が生えている場所までやって来た。幸運なことにきのみがいくつかなっている。は背伸びをして、どんなみがあるのか確認しようと目を凝らした。艶のある黄緑色のきのみ……あれはラムの実だ。鮮やかな緑の厚い皮の裂け目から黒い実を覗かせているのはビアーのみ。それから……。はふと、見慣れないきのみがなっていることに気がついた。楕円を三つくっつけたような形。ほんのり橙がかった桃色に黄色のラインが入った皮。何て言うきのみなんだっけ。それによくよく考えると、どこかで見たことがあるような。
なんとか思い出そうとして、は左手で作った拳を額に当てて唸る。あれはたしか、からいカレーのレシピを調べていた時に見かけて、材料の中に名前があった……そうだ、アッキのみだ。少し貴重なきのみなんだった。記憶を手繰り寄せていくうちに答えを見つけ出したは、胸のつかえがすとんと落ちた感覚に顔を明るくした。
「ねえ、カラカラ! あのきのみ——」
カラカラにきのみの名前を教えてあげようと、振り返りながら言いかけた言葉が途切れ、の目が驚愕に見開かれる。そこにカラカラの姿は無く、代わりに居たのはレパルダスだった。切れ長の瞳には敵意がありありと浮かび、しなやかな身体は今にもに飛び掛からんと構えている。
襲おうとしているのは明白だ。今すぐにでも逃げなければいけないのに、恐怖のあまり金縛りにあったように動けない。それを好機とばかりにレパルダスは後ろ足で地を蹴り、鋭い爪をに向けた。
——が、届かなかった。の肌を切り裂くより先に飛んできたふといホネが、レパルダスの横っ面にぶつかったからだ。数センチ届かなかったレパルダスの前足が、の鼻先で空を切る。
「カラカラ……」
腰を抜かしてへたり込んだが、掠れた声で呟く。霧に紛れてはぐれてしまったはずのカラカラが、の危機を察知して駆けつけてくれたのだ。迷子になるとが迎えに来るまで泣き続けた、あのカラカラが。
思わぬ邪魔に標的がカラカラへと変わったレパルダスが、歯を剥き出して威嚇する。カラカラも戻って来たホネを握り直して対峙した。
レパルダスはつじぎりを繰り出し、カラカラを切りつける。が、それとほぼ同時にカラカラはもう一度ホネを投げつけた。油断していたレパルダスは正面からまともにホネブーメランを食らって、ふらりと体勢を崩した。カラカラもつじぎりのダメージを受けて後ずさる。しかしまったく引くことはせず、そのまま高く飛び上がるとすてみタックルを繰り出した。
ガツンと派手な音がして、レパルダスは倒れた。対して特性いしあたまのカラカラはびくともせず、決着がついたかのように思われた。だがレパルダスはまだ戦意を喪失していないらしく、立ち上がろうとしている。カラカラも再度ホネを構えて応戦の姿勢を見せた。
すると、二匹のあいだに小さな影が飛び込んできた。はぱちりと目を見開く。レパルダスとよく似た毛の色——それはチョロネコだった。チョロネコはカラカラに攻撃することはなく、ただレパルダスに向かってなにか訴えるように鳴いている。レパルダスはしばらく黙ってそれを聞いていたが、やがて立ち上がるとたちを一瞥し、背を向けた。おぼつかない足取りで先導するレパルダスの後ろをチョロネコが一生懸命について行く。その姿が霧の向こうへ消えていった頃、ようやくは我に返った。
「カラカラ!」
名を呼べば、カラカラは急いでのもとへ駆けて来てくれた。胸に飛び込んでくる小さな身体を、は力いっぱい抱きしめる。
「ありがとう……。あなたが居なかったら私、無事じゃ済まなかったと思う」
トレーナーの指示無しで、自分より身体の大きいポケモンと戦うのは怖かっただろう。それでもカラカラは怯むことなく立ち向かった。を守るために。
カラカラの頭に、ぽつりと雫が落ちた。の涙だ。危機に晒されていたことへの恐怖と、そこから救われた安堵。加えて駆けつけてくれたカラカラへの感謝で胸がいっぱいになり、涙という形で感情が発露された。
「ご、ごめん。泣くつもりはなかったんだけどな」
これ以上カラカラを不安にさせたくない。は笑って誤魔化しながら右手の甲で涙を拭う。それでもなかなか止まってくれなくて、どうしたものかと考えあぐねていた時。抱かれているカラカラが腕を伸ばし、の濡れた頬を撫でた。思いがけない仕草にきょとんとしていただったが、それがカラカラが泣いている時に慰めるの行動を真似しているのだと気づいて、さらに涙腺が緩んでしまった。
「カラカラ、本当にありがとう。あなたは私の自慢のパートナーだよ」
もはや泣きながら笑うの顔を、カラカラのあどけない瞳が捉える。そして彼が心底嬉しそうに笑った瞬間、きらりと光が溢れた。その光はカラカラの身体を包んで、どんどん拡散されていく。なにが起きているのか理解したが眩しさに瞼を閉じると、目尻に残っていた最後の涙がほろりと落ちた。
次にが目を開けると、カラカラはガラガラに進化していた。
◇◇◇
ふたりはそのままキバ湖の瞳にテントを張り、すっかりお腹が空いてしまったためすぐさまカレーを作ることにした。
使うきのみはリリバのみ二個、チイラのみ三個、ヤタピのみ二個、それからアッキのみ三個。トッピングはミルタンク印のモーモーチーズだ。ガラガラは大好きなからいカレーが楽しみなのか、の周りを落ち着きなくうろうろしている。進化して見た目が変わっても、こういうところは変わらないらしい。
「さっきのチョロネコとレパルダス、もしかしたら親子だったのかもね」
カレーの鍋をぐるぐるとかき混ぜながら言うは、頬に涙の跡は残っているもののすっかり元気を取り戻した様子だ。
おそらくチョロネコはスマホロトムを盗もうとした子と同一で、レパルダスは自分の子を傷つけたたちへ報復しに来たのではないか……というのが、の推測だった。
危ない目に遭いそうになったのは事実だけれど、レパルダスの行動も理解できなくはない。大切な存在が傷つけられて怒る気持ちはにもよく分かる。カレーの完成を今か今かと待ち望むガラガラを見遣り、はそう思った。
「はいはい、ちょっと待っててね」
お皿に盛られたターメリックライス。その上に熱々のカレー、そしてモーモーチーズをのせれば完成。カラカラの前にお皿を置いてあげれば、待ってましたとばかりに食べだした。もスプーンを手に取り、カレーを頬張る。からいきのみをふんだんに使っているだけあってかなりからいが、それをモーモーチーズが和らげてくれている。文句なしのおいしさ。ガラガラも夢中になって食べている。
「おいしい?」
聞かなくたって答えは分かっているのに、は優しく目を細めて問う。ガラガラはとびっきりの笑顔を浮かべて頷いてくれた。その表情にカラカラだった頃の面影を感じて、どちらの姿も好きだなとはしみじみ思った。
カレーをぺろりと平らげたガラガラはおもちゃで遊ぶでもなく、の膝の上に乗ってきた。甘えたいらしい。「ずいぶん大きな赤ちゃんだね?」とがからかい混じりに抱き締めても気を悪くするどころか、上機嫌に喉まで鳴らした。よしよしと頭を撫でて、ふたりはそのまま同じシュラフに潜って眠った。
食いしん坊で甘えん坊で、好奇心旺盛で、勇敢なガラガラ。私の宝物。あなたがパートナーでよかった。
安心しきったガラガラの寝顔を眺め、は心の中でそう呟いてから瞼を閉じた。
これまでも、これからも
20230508