SSまとめ
これまでTwitterに投稿したSSをまとめました。

◇ひとつひとつ愛してね/アマージョ
 金のチェーンに淡いグリーンの石がついたネックレス。それを私の首元に飾りつけて、彼女はほのぼのと笑った。

「いつも私を助けてくれる、強くて優しい女王さまに」

 そうね、あなたはぽやぽやしているから。朝に弱くて、目覚まし時計が鳴っているのに私が起こさないといつまで経っても目を開けないし。ワイルドエリアにきのみを取りに行った時なんて、ヨクバリスにカゴの中身を狙われているとも知らずによそ見したり。私が何度、睨みを利かせて追い払ったことか。

「これからも私と一緒に居てね」

 当たり前でしょう。私以外にあなたのパートナーが務まるポケモンが居ると思って? やわらかく細められた彼女の瞳に映る、ネックレスを着けた私は少し誇らしげに見えた。
 のんびりした彼女の世話を焼くのを、面倒くさいと思うことだって無くはない。でも、あなたの腑抜けた微笑みを見ると苛立った心が落ち着くの。絶対に秘密だけれどね。

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◇君と生きたいから/ランプラー
「どうして魂を奪ってくれないの?」

 蒼白い炎を揺らめかせながら、月のような瞳で私を見つめるランプラーは何も答えない。ねえ、ランプラーは死期が近い人の前に現れて魂を吸い取るんでしょう? それを狙って私と出会ったことも、共に過ごしながら生気を吸われていたことも知っている。知っていて、気づかない振りをしていた。だってこの病弱な身体では生きていたって何もできない。ベッドの上でじわじわと死を待つよりも、あなたの力になりたかった。生きる意味よりも死ぬ意義が欲しかった。
 それなのに、どうして? あふれた涙がパジャマとシーツを濡らしていく。この魂には奪うほどの価値も無いと言うのだろうか。それともあなたも私を見限るの? いつかみんながそうしたように。
 するとランプラーは私の頬に黒い腕を伸ばし、涙を拭うようにぎこちない仕草をした。その腕はひどく冷たくて、生き物の温もりはどこにも無いのに誰よりも優しい。その時初めてランプラーの心の端に触れられた気がして、私はそっと瞼を閉じた。


◇ヤヤコマ、布団あっためて……
「ヤヤコマちゃん、どこに行ったのー?」
 寝支度を済ませ、さあベッドに入ろうと思ったのにヤヤコマの姿が見当たらない。先ほどまでリビングで羽繕いをしていたはずなのに。まさか逃げてしまったのでは……と一瞬青ざめたけれど、この真冬なのだ。当然どこの窓も開けていないし玄関の出入りも無い。つまり家の中には居るはずなのだけれど。
 どこに行っちゃったんだろう。こんなところに居るわけないよねと思いつつも、ソファの下やカーテンの裏を確認する。リビングには居なさそうだ。手当たり次第に家の中を捜索していると、寝室のドアが少し開いていることに気がついた。あれ、閉め忘れてたっけ? ノブに手をかけたところで、布団が不自然に膨らんでいるのが見えた。まさか。

「ヤヤコマちゃん、そこに居るの?」

 おそるおそる声をかけると、その膨らみは反応するように形を変えた。それから布団の端に向かって移動していく。もそもそと動きづらそうにしながら顔を出したのは、まさしく私が探していたヤヤコマだった。

「もー、探したんだよ!」

 頬をつつくとヤヤコマは可愛らしく首を傾げた。「ごめんね?」とでも言っているみたいだ。布団の中に居たせいで頭の毛がぼさぼさになっている。それを直してあげて、私はベッドに潜り込んだ。

「わ、あったかい……」

 冷えた足先がぬくもりに包まれる。もしかして、布団をあたためてくれていたの? ひと足先に枕へ顎を乗せていたヤヤコマは、私の視線を受けると得意げにチュンと鳴いてみせた。


◇ハッピーバレンタイン/マスカーニャ
 マスカーニャは桃色の肉球がついた両の手のひらを、ぱっと開いて見せた。何も持っていないことをアピールするように、数回握っては開いてを繰り返す。が納得したところでマスカーニャはハンカチを取り出し、それで右手を覆い隠した。それから指を鳴らして得意げに微笑む。
 ぱっとハンカチが取り払われると右手には薔薇が一輪握られていた。茎に白いリボンが結ばれ、棘も抜かれた真っ赤な薔薇。マスカーニャはのそばに寄ると恭しく跪き、彼女の手にその薔薇を握らせた。マジックに使うための造花ではなく、どうやら生花のようだ。鼻を近づけなくても芳醇な花の香りが漂ってくる。

「ありがとう。これ、バレンタインの贈り物?」

 マスカーニャは瞳を細め、肯定するように鳴いてみせた。それからの手の甲へと唇を落とす。

「……情熱的だね」

 膝枕をせがんできたり、ごろごろと甘えてくるいつもの姿とはずいぶん違うではないか。
 贈る花と本数には意味がある。一輪の赤い薔薇。まったく熱烈な愛の告白だ。は薔薇の赤が移ってしまったかのように頬を染める。
 すごいでしょ? 褒めて? と膝の上に寝転がってくるマスカーニャのことを撫でてあげながら、はこの薔薇がなるべく長持ちする方法をあとで調べなければと考えていた。


◇アシレーヌちゃんポケまぜ実装おめでとう
 曲線の美しいグラスの中で、青いソーダがしゅわしゅわと泡を弾けさせている。水面を目指して我先にと走っていく空気の粒を見ていると、まるで海の中のようだった。けれど海と違うのは、色とりどりのフルーツや氷が沈められていて甘い味がするところ。汗をかくグラスから滴った雫にちょんと触れているアシレーヌのところへ、化粧直しに行っていたが戻ってきた。

「あ、私がいない間に来てたんだね。オシャマリのぷにぷにグミソーダ!」

 きょとんと首を傾げるアシレーヌに、は優しく微笑む。

「これはねー、オシャマリをイメージして作られたドリンクなんだよ」

 そう言われてアシレーヌは改めてグラスに視線を戻した。グラスについたフリルや、ソフトクリームの上に乗ったグミ、そしてソーダの青。なるほどたしかに、言われてみればオシャマリの要素が散らされている。

「ソフトクリームが溶けないうちに一緒に飲もうね。はい、あーん」

 はカトラリーケースからスプーンを取り出し、ソフトクリームの部分を掬ってアシレーヌへ差し出す。喜んで頬張るとバニラの優しい甘さに少しだけソーダの酸味が混ざって、不思議な感じだ。もソフトクリームを口へと運び、満足げに笑う。

「んー、おいしい! 生き返るみたいだね」

 このカフェに辿り着くまで、日傘を差していてもなお焼かれるような暑さにひいひい言っていた。近頃の夏は暑くてたまらない。クーラーの風と冷たいソーダが熱った身体を冷ましてくれている。

「またこのカフェに来ようね。夏が終わっても、ずっと」

 ストローでソーダを飲んでいたアシレーヌは頷いて、同意を示すようにの手を握る。いくら季節が巡っても、ふたりで半分こして飲んだソーダの味は忘れない。
 いつかはアシレーヌをイメージしたメニューも作られるのだろうか。もしその時が来たら、はきらきらした笑顔を浮かべて喜んでくれるのだろうな。アシレーヌの胸の中も、ソーダの炭酸みたいにぱちぱちと弾けるように踊るのだった。


◇Summer has come/ガーディ
 身体の芯から溶かすような夏の暑さには毎度のことながら参ってしまう。なるべく家から出たくないなあとものぐさに拍車がかかる私と裏腹に、ガーディは元気いっぱいだ。夏らしくビニールプールで泳いだり……はほのおタイプだからしないけれど、お庭を駆け回ったりボール遊びしてとねだってきたり、色鮮やかなお花たちの匂いを嗅いではちょっかいを出している。この元気の半分くらい私にもあったらなあ。縁側の日陰になる部分に避難しつつ、ガーディが咥えてきたボールをもう一度投げてあげた。ぴょんと跳んでキャッチしようとしたガーディだったが、勢い余って鼻先でボールを弾いてしまったらしい。見当違いの方向に転がるボールを追いかけて元気に走っていった。あんなに尻尾を振っちゃって、可愛いな。
 そばに置いていたお皿からスイカをひと切れ手に取り、口元へ運ぶ。溢れ出す果汁は優しい甘さだ。少しざらついた食感の果肉と、舌に触れるつるりとした種。スイカを食べるといよいよ夏だなと実感する。スイカは甘くておいしいし、水分補給もできる優れものだ。よく熟れているし塩をかける必要もない。
 私がスイカを堪能しているうちに、ガーディはボールを見つけて戻ってきた。また投げてほしいという顔をしていたけれど、私の手にある食べかけのスイカを見て不思議そうに小首を傾げる。

「ふふ、これはスイカって言うんだよ」

 ガーディはボールをぽいと離して、縁側に飛び乗った。それから私の手元に顔を近づけてくんくんと鼻を寄せる。いつも与えているきのみとは少し性質の違うものだから、珍しく感じているのかもしれない。

「ガーディも食べる? おいしいよ」

 これは食べられるものなんだよと教えるため、実際に頬張ってみせる。するとスイカは思いのほか水分をたっぷり含んでいて口元が汚れてしまった。元気良くかじりすぎたかも。スイカの汁ってべたべたするんだよね……。肩を落としていると、ガーディは膝の上に乗ってきて私の顎を伝う果汁をぺろりと舐めた。

「わ、こらこら。くすぐったいんだけどー!」

 どうやら味がお気に召したのか、食べられてしまうかもしれないと思うくらいの勢いで私の顔を舐めてきた。子犬のじゃれつきそのものだ。

「もー、ストップストップ! ほら、スイカはちゃんとあるから!」

 お皿からもうひと切れスイカを取って、ガーディに差し出す。自然と私の膝でくつろぎだしたガーディは喜んでスイカにかぶりついた。
 しゃくしゃくと小気味良い咀嚼音を聞きながら空を見上げる。目の覚めるような青い空には立派な入道雲が浮かんでいた。今はこんなに綺麗に晴れているけれど、少ししたら雨が降ってくるのかも。
 暑いのは嫌いなはずなのに、こんなにも美しい蒼穹が暗雲に覆われてしまうかと思うと、それはそれで惜しいと感じてしまう。

「……食べ終わったら、もう少し遊ぼっか」

 まだお日様が出ているうちに、ね。
 ガーディはスイカの果汁で口の周りをほの赤く染めながら、嬉しそうに鳴いた。