サーナイトと罪な味

サーナイトと罪な味

 パルデア地方の中心に位置するテーブルシティ。学生から旅人まで様々な人が行き交い、いつも賑わっている街だ。
 そのテーブルシティにある「ファミリーレストラン バラト」の看板が掲げられた建物を見上げ、は険しい表情を浮かべていた。後ろでは彼女の異変を察知したパートナーのサーナイトがおろおろしている。

「サーナイト、私ね……どうしても我慢できないの」

 苦々しく呟かれたの言葉に、サーナイトはいよいよ困り果てた。
 サーナイトが思い返してみれば、今朝からの様子はおかしかった。体調が悪いわけではなさそうなのに朝ご飯を食べず、本人の言葉どおり何かを我慢しているみたいだったし、スマホロトムと睨めっこしては悩むように唸っていた。
 いったい、どうしてしまったというの? 不安げなサーナイトをよそに、は握りしめた拳を持ち上げてその五指を開くと、バラトのドアを開けた。軽やかなベルの音と共に、店の奥から「っしゃいませー! 空いてるお好きな席にどうぞー!」と威勢のいい店員の声が飛んできた。混雑する時間帯を過ぎたところなのか客の姿はまばらだ。
 とサーナイトは手近な二人席に向かい合って腰掛ける。さっそくお冷を持ってきてくれた店員が「ご注文決まったらお呼びくださいね!」と言って去ろうとしたが、はそれを引き止めた。

「あの。チョコバニラフルーツパフェ、ひとつお願いします」

「チョコバニラフルーツパフェっすね! お作りしますんでお待ちください!」

 制服のポケットから取り出したメモに注文を書きつけ、店員は元気な返事を残してキッチンへ去っていった。
 声の大きな店員さんね。サーナイトが店員の後ろ姿を目で追っていると、が不意に口を開く。

「あのね、サーナイト。今日ここに来たのは、チョコバニラフルーツパフェを一緒に食べてほしいからなの」

 そうだったの? とサーナイトは首を傾げる。あの思い詰めた様子を鑑みると、なんだかそれだけの理由ではなさそうだったけれど、と。
 そんなサーナイトの視線を受けてか、は口ごもり始めた。

「ギリギリまで迷ってたんだ。その……チョコバニラフルーツパフェって、結構カロリーが……」

 つまり、こういうことだ。はずっと前からチョコバニラフルーツパフェを食べたかったけれど、カロリーのことが気がかりで二の足を踏んでいたと。たしかに、チョコバニラフルーツパフェは一日の摂取カロリーをそれだけで満たしてしまうほどの大物だ。そこで、朝ご飯を抜いてカロリー調節をすることでうまく帳尻を合わせられるのではないかとひらめいたらしい。

「まあ、カロリーは抑えられても糖質と脂質が問題なんだけどね……」

 トーシツ、シシツ……サーナイトにはそれらが何なのかよく分からない。が、大きな溜め息を吐くを見ていると、彼女を困らせる厄介な存在であることは明白だ。

「けど、食べたいものは食べたい! だからふたりで半分こしようって魂胆です。サーナイトも甘いの好きでしょ?」

 サーナイトがこくりと頷くと、は固く結ばれていた唇を解いてようやく表情をやわらかくした。
 よかった。サーナイトは安堵して、氷の浮かんだお冷に口をつける。何に悩んでいるのかと思えばパフェを半分こしようだなんて、可愛いお誘いね。サーナイトは小さく笑った。

「お待たせっしたー! チョコバニラフルーツパフェっす!」

 先ほどとは違う店員(だが、声が大きいのは同じだ)が、完成したパフェをテーブルの上に乗せた。それは決して乱暴な仕草ではなかったのに、ドン、と重たい音がしたのはサーナイトの聞き間違いなどではない。百合の花弁にも似たグラスの中に詰め込まれたクリームやアイス、フルーツたちの密度が高く、それに比例して重量も増しているからだ。
 カーマインの瞳を丸くするサーナイトを尻目に店員はカトラリーセットと伝票を残し、「ごゆっくりどうぞー!」と去っていった。

 サーナイトはまじまじとチョコバニラフルーツパフェを眺める。チョコケーキとクリームをいくつか重ねて作られた土台。その上にはアイスが鎮座し、その周りをまたもやたっぷりのクリームが囲んでいる。ミカンやスライスされたリンゴ、メロンといったフルーツもふんだんに使われていて彩りも良い。ラブカスを模したチョコレート細工もポイントだ。
 甘いもの好きなふたりは目を輝かせ、デザートスプーンを手に取るとさっそくパフェを食べにかかった。綺麗な円を描いていたアイスがふたつのスプーンにくり抜かれ、でこぼこな形に変わる。
 チョコとバニラのミックスらしいアイスは、口に運べばサーナイトの舌の上にまろやかさと冷たさをもたらして溶けた。チョコの香りが強いかと思いきや、後味にバニラの甘さが残る。

「おいしい……!」

 は弾んだ声を上げ、破顔した。まるでとろけるような笑顔にサーナイトもつられて微笑む。
 我慢してつらそうにしているより、好きなものを食べて幸せそうに笑うが私は一番好きよ。そう心の中で呟いて、サーナイトはの口元についたクリームを紙ナプキンで拭ってあげた。


20231015