見張りを頑張るオタチにご褒美
わたしはオタチ。のパートナーだ。毎日見張りの番をこなし、を守るのがわたしの仕事。
かつて、群れが敵に襲われて壊滅状態だった時。わたしを助けに来てくれたに恩を返したいから。そしてわたしがのことを大好きだから。今日も危機が訪れないように外を見張るのだ。
大窓から見えるお庭、垣根の向こうに影は無い。誰かがこちらへ向かって来る音も、特には聞こえてこない。つまり異常無し。
ピンと立てたしっぽと耳を動かして、わたしはお家の外を見張る。野生のポケモンや不審な人間が足を踏み入れようものなら、に大声で知らせるのだ。すべてはわたしとがこのお家で安全に暮らせるように。
その時ふと、お庭の上空にムックルの群れを認めてわたしは身構える。もしや侵入してくるのでは。あちらがそのつもりなら、わたしも容赦はしない。でんこうせっかやみだれひっかきで一網打尽にしてやる。思わず両の手を握りしめた。
けれどムックルたちはお庭に降り立つこともなく、そのまま通り過ぎて行った。殿を飛ぶムックルの尾の先が見えなくなるまで目で追い、視界から完全に消えたところでわたしは胸を撫で下ろす。敵襲ではなかったようだ。
「オタチ」
優しい声を拾い上げたわたしの耳が、ぴくりと跳ねる。だ。返事をしてすぐさま駆け寄りたいところだけれど、今はまだ我慢。わたしに課された見張りの番を終えてからでないと、に何かあったら悔やんでも悔やみきれない。
そのうちはわたしのすぐそばまで寄って来て屈んだ。たぶん用事があるのだと思う。は見張り中であるわたしの視界を遮ることなく、真横で話し出した。邪魔をしないよう気を遣ってくれているのだ。
「見張りの番、お疲れ様です。そろそろ休憩しない?」
「もうすぐおやつの時間だし。ね?」とはわたしを諭す。おやつの時間。見張りを始めてからもうそんなに経ったのか。
わたしはの言葉に甘え、しっぽを立てるのをやめて床に足の裏をつけた。そうすると、ようやく大好きなの顔を見られるようになる。はにこにこ笑って「いつもありがとうね」とわたしの頭を撫でてくれた。神経をぴりりと張り詰めていた疲れも、が労ってくれればどこかへ吹き飛んでしまう。わたしは背伸びをして頭をの手のひらに押し付けた。もっと撫でてほしいと伝えるために。
「いい子、いい子。ふふ、今日のおやつはポフレだよ」
そばに置かれているテーブルの上からポフレの乗ったお皿を手に取り、は差し出してくれた。クリームの甘い香りがふんわりと鼻をくすぐる。舌がポフレの味を思い出して、まだ食べてもいないのに甘い風味が蘇ったような感覚がしてきた。
よっぽど物欲しそうな顔をしていたのか、がくすりと笑う。そして「おいで」と膝の上を叩くので、わたしは迷わずそこに腰を下ろした。甘える時の特等席だ。
が口元に差し出してくれたポフレを頬張る。プチデコサワーのポフレ。二種類のクリームを重ね合わせた上に、可愛らしいオレンジがちょこんと乗っている。生地の甘さとクリームの酸味がバランス良く、わたしはつい夢中になって食べてしまう。一仕事終えたあとのおやつは最高においしい。があーんしてくれているから、というのも要因のひとつだけれど。
あっという間に三つのポフレをぺろりと平らげてしまったわたしは、真ん丸になったお腹を抱えてに寄りかかる。少しだけ眠たくなってきた。
「今度は私が見張りをするから、オタチはゆっくり休んでてね」
ほっぺたをもちもちと撫でられると、わたしはもう睡魔に逆らう気が無くなってしまう。じんわりと瞼が重くなってきて、耳に入る音もどこか遠くなっていく。大好きなポフレを食べて、大好きなに抱っこされながらお昼寝ができるなんて。わたしはなんて幸せ者なのだろう。この幸せをずっと守っていきたい。
——、何かあったらすぐに起こしてね。敵はわたしがやっつけるから。
夢と現の狭間に揺蕩いながら伝えたわたしの言葉が届いたのか、は「頼りにしてるよ、オタチ」と呟いて、わたしの身体を両腕で抱きしめてくれた。嬉しくて喉がくるくると鳴る。抱きしめ返すため、わたしは自慢のしっぽをの腕に絡ませた。
20231014